The fall is forest vol.35




「まだ 歩くだのか…?」

「まだまだだ。コノヤロー。」



僕の名前は「モリラ」。



んも〜!カンベンして欲しいだの!!

ずーっと! 歩き続けてんだの!!

疲れたんだの!!



「ほれ、さっさと歩きなよ。」

「そうよ。おっそいわねぇ。」

「早く歩け。このイモ野郎。」



「うっさいんだの!!おまえら何だの!?ていうかイモ野郎って何だのか!?」


「まあ落ち着けコノヤロー。」


「落ち着くもクソもないんだの!!ピリーリ!帰ろうだの!!」

「まあ待てコノヤロー。帰ろうって、どこにだい? ここも森だぜコノヤロー。」


「うまいこと言って!!まだ歩くだのか!!」

「まだだ。コノヤロー。」







もう、だいぶ景色も変わって、来たことのない場所、見たことのない景色、
僕はヘトヘト。

(もどる?僕が?何にだの?)

ピリーリが言ったことが、気にかかる。




「ねえ、ピリーリ、さっき言ってた、僕がもどるって、何だの?」


「うん? んん… まあ、あれだ。忘れてること色々あんだろ?
そういうのまとめて思い出せるかもしんねぇってことだな!!」


「ふぅん…。それって、いいことだのか?」

「…! まあ、それは思い出してから自分で決めりゃあいい。
そうだろ? コノヤロー。」


「ふぅん…。ところで、まだ、歩くだのか…?」


「もうすぐだ。コノヤロー。」




「元にもどってもらわなきゃ困るわよ。」

「そうよ。なんとかしてもらわなきゃ。」

「早くもどれ。このイモ野郎。」




「うっさいんだの!!!おまえら何だの!!?
ていうかイモ野郎ってまた言ったな!!」


「まあ落ち着コノヤロー。」


「僕は!!落ち着いてんだの!!!!で!!まだ!!歩くだのか!!!!」


「だから!もうすぐだ!イモヤロー!!」
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The fall is forest vol.34




モリラたちの到着を待ちきれなくなったのか、
自ら合流すべく、降り立ったそれは早足に歩き出したが、
そこに虹が一橋、行く手を遮るように現れた。

「ふぅ〜。いや、居ましょうよ、ここに。」

イーヌ・ブルーノだ。


突然ブルーノに出くわしたそれは、この先に待ち構えているであろう、
大仕事に対して不安を抱えた心の置き所を見つけ、
堰を切ったように捲し立てた。
待つのが苦手と言いながら、本当のところは、
早く誰かとこの不安を共有したかったようだ。


「あ、ああ、ブルーノ、い、いったい何処へ行っていたのですか。
ここに居ましょうって、じょ、状況を考えて下さい!
今彼らは本当、逼迫した状態にあるのですよ。
あの方も今までになく不安定ですし、侵入者たちだけならともかく、
ピリーリまで興奮している状態ではありませんか!
そ、そもそもあなたとピリーリは連携はとれていたのですか?
コミュニケ業務というものは複数人で仕事をする上で最重要なので
ございますよ!
ああ、いてもたってもいられない!」




「逼迫って…。ふぅ〜。」

いつにもまして気怠い溜息をついたブルーノは、
こう続けた。

「ふぅ〜。あのねえ、ピリーリはともかく、
僕はこんなもんですよ。こんなもん。
状況を考えろったって、そんな劇的に
急変するもんじゃないでしょう。
それに現状のままでイイって言ったのアナタでしょう?
ふぅ〜。
侵入者たちが興奮してる?
あんなかんじですよ。いつも。
だって下の世界の住人なんだし。
下にはもっと凶暴なのもいますって。
ふぅ〜。
ボクはねぇ、多忙なんですよ、多忙。ふぅ〜。
下と、この森と、上と、
3つの世界を巡回しなきゃならないんだから。
もっとも気の向くままですけどね。
なんかたくさん喋って疲れちゃいましたよ。
そんなで、とりあえず待ちましょ。ね。ふぅ〜。」





「そ、そうでございますね!わ、私としたことが…。
私、久々の降臨&仕事に対する意識のべらぼうな高さによって、
すっかり、いや、めっきり舞い上がっていたようでございます!
めっきり…、いや、すっかり… 
この場合どちらでごまいましょうか?」



「ま、とりあえず落ち着きましょう。そのうち来ますよ。
ふぅ〜。先回りしといてよかった。」
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The fall is forest vol.33



降り立つと、辺りはやわらかくまばゆい光に覆われ、それは次第に
質量を帯び始める。


燕尾服に蝶ネクタイという出で立ち、逆光越しには丸メガネ、
その奥には黄みを帯びた瞳が妖しく光る。


襟を正すような仕草をした後、それは周囲の動植物、あるいは
その空間に対して、話を始めた。



あの方があのような御姿になってどのくらいの時間が
経ちましたでしょうか…。

原因となりました、異世界からの侵入者たち、彼らへの対処は
私の役割であったはずですが、あの方の急な意思と、

その意思によってもたらされた変貌に、私は何もできずに
ただ見入っておりました…。


その後、すぐに私が対処し、元の御姿に戻して差し上げようとも
思いましたが、あの方の変貌後のご様子が、とても幸せそうで、
しばらくご様子を伺っておりました…。

そうです。「このままで良いのではないか。」という判断でありました…。
この、「いちばんおおきな木」はもちろん、森全般に関する
トラブルの解決は当然、あの方の変貌前も、その後も、そしてこれからも、

私が一人で担っているのですから、あの方のほうから、ご要望がない限り、
見守ろうと判断した次第でございます…。

私も立場上、この場所からなかなか動けないものですから、あの方を近くで
見守るために、機動力と判断力に長けた者に何かあったらここに導くよう
お願い申しあげておきました…。ピリーリとブルーノでございます…。

もっとも、ブルーノはもともと下の世界ともつながっておりますから、
侵入者たちを監視する役割も兼ねておりました…。

侵入者に関してですが、どうやらこれは下の世界から本来の往来方法を
守らずにやってきたと見受けられます…。

しかし、本当にただそれだけのようで、とくに害はないと
いったところでしょう…。

彼らは下の世界から船のような乗り物を使って侵入したようですが、
このようなケースは初めてで、あの方が驚いて変貌されてしまったのも
頷けます…。


船で外側から突っ込むなんて信じられない…。


さて、どう対処したものか…。


侵入者たちは、あの方の力で船を直してもらおうといている。
しかし、あの方が元の御姿に戻っても、そういった力は無い…。

あの方は御自身のことを御知りになりたいだけ…。

私にできることと言ったら、あの方を元の御姿に戻すという
ことだけ…。その後はあの方次第でしょうな…。

しかしながら私もこの森で起きた問題の解決役。
ここに向かっている方々全員の話を聞いて、適宜対応いたしましょう!


しかし遅いでございますね。
まだ、でしょうか・・・。


私待つのが苦手なんでございますよ。
本来この「いちばんおおきな木」から離れちゃまずいのですが、
も、こうなったら私の方から向かうでございますよ!
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The fall is forest vol.32




それは、時々、すぅっと降りてくる。

森で何かあった時、時々。

モグラとヘビの争いを治めたり、春を寝過ごしたクマを起こしたり。

ときには名の無いバッタに名前をつけたりもした。

広葉樹たちに冬に葉を落とすように説得したのも、そうだ。


それが、今もまた、降りてきた。


辺りは若い緑がゾワゾワと生えだし、光を浴びて輝きだす。

木々たちはにわかに活気を帯びて、整列するかのようにピンと背伸びをする。

空気は青白く広がり、沢の流れは勢いを増した。



「さて、ようやく、いらっしゃるようで。あの方は。」そう一言つぶやいて、
それは『いちばんおおきな木』に寄りかかり、遠くを眺めた。



「さて、どのようにいたしましょうか。このようなケースは私、初めてでございますが、
円滑に事が運びますよう、誠心誠意、尽力させていただく所存でございます。」




森で起こる様々な事柄。

それを解決する役目の者もまた、森には存在する。
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The fall is forest vol.31





僕の名前は「モリラ」。
あと、これはボンヤリなんだけど、
「今の僕になる前の僕」ってのがあったみたい。


そのことを、思い出そうとしてるのに、
コイツら3匹がせっせと僕を担いで運ぶもんだから、
揺れちゃって揺れちゃって。

金色の草地の奥のさらに奥、木々の背は次第に高くなっていく。
ひんやりした林の中を僕は揺すられながら、時々落とされながら運ばれ、
ようやく一本の木の前で止まって、僕は乱暴に落とされただの。
で、次は、「これに登るの。さあ。」って。

事態がよく呑み込めず、今の記憶と前の記憶がごちゃごちゃしていて、
僕は心が忙しい。僕の呆けた様子がイヤなのか、3匹はイライラしているようだ。

「ちょっと、さっきから、いや、前々から?なんなんだの?」
僕は感じたままを言ってみたけど、まったく聞いていないようだ。

有無を言わさず、青いのと、緑のと、オレンジのが代わる代わる下からグイグイ押し上げるもんだから、
結局、嫌々登る羽目になったけど、なんだの?これ。


そんで、木が二股に分かれたところまで登ると、
そこにはピリーリが待ってただの。

僕はピリーリに会いたかっただので、ようやく話せると思って、
嬉しくて近寄ろうとさらに足を上げると、


「ピィヤァァーーー!!そこでぇい!!」
「そこで止まれぇい!!コノヤロー!!」って。


ピリーリに言われりゃそうするけど…
久々に話せるってのに、なんなんだの…

その後も、

「コッチ見てんじゃじゃねえ!!アッチを見ろ!!」
「光の指す方角でぃ!!あれが『いちばんおおきな木』でぃ!!」

って、怒鳴るんだの。



僕はピリーリに会いたくて、ピリーリを探そうとして、
遠くを見渡せる『いちばんおおきな木』に登ろうとしていただけだの。
だからもういいんだの。って言いかけたんだけど、





「モリラ!おめぇがもどる時がきた!よかったなぁ!!」

って、ピリーリが。





(もどる?僕が?何にだの?)




不意を突かれ、言葉が出なかっただの。
僕の心はさらに忙しくごちゃごちゃしてきただの。


僕の足元では3匹が押し黙って光の指す方角を見つめていただの。
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The fall is forest vol.30





目を開けると、静かな木々と穏やかな空。
いつもの景色。やわらかい光。

僕が見たのは夢だったのか、
それとも記憶の断片だったのか、
おかしなカンジだの。



「あ、目が覚めたみたい。」
「いいわよ。もう。このまま運んじゃえば。」
「そうね。そのほうが早いわ。」


何か言っているのが聞こえるだの。
コイツらは?
そうだ。コイツらとは以前に会っている。
確かだの。実感で分かる。
コイツら、森に穴を開けたヤツラだの。
どうして今まで忘れていただのか?
やはりただの夢ではなかっただの。




つまり、僕の名前は「モリラ」。
そんで、コイツらは「森に穴を開けたヤツラ」だの。

あと、これはボンヤリなんだけど、
「今の僕になる前の僕」ってのがあったみたい。






「ずいぶんおとなしいわね。そして重いわね。」
「ね。目が覚めたら暴れると思ったけど。」
「様子が変ね。ボーッとしちゃってる。」


「何か思い出したんじゃないの?」
「だとしたら話が早い。」
「に、しても重いわ。」



僕をどこに運ぼうとしているだのか?
なんだか夢の続きみたいで混乱するだの。






そういやピリーリは?
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The fall is forest vol.29





背後の気配がスーッと消えたのを感じると、
同時に前方から奇妙なやつらが現れた。
片方は縦長で緑色、もう片方は横長でオレンジ。
二本のツノが生えている。
目の前にいるコイツ、青くて小さいやつの仲間か。



僕の名前は「モリラ」。
僕が僕のことでわかっているのは それだけだの。


いや、それだけじゃない。
コイツらが木々をなぎ倒し森に穴を開けた。
静かな朝に。それで僕はイライラしている。



「あら、二人とも無事だったのね。良かった。」
「やっぱり三人揃わなきゃ調子狂うもの。」

「ブフゥー 着いたのね。」
「着地がうまくいかなかったのよ。やっぱり。」
「船どーすんのよ。大破よ大破。」

「観光にしちゃ無茶しすぎたかしら。」

「どーやって帰んのさ?」


僕をチラチラ見つつも、こいつらは仲間どうしで何か言っている。
僕はさらにイライラして怒鳴ったんだの。

「おまえら!!何だの!?」
「森に!!なんてことしてくれただのか!!」


僕が怒鳴ると、一瞬静かになり、ソイツらは顔を見合わせた。


「いやあ、ごめんなさいね。本当に。」

縦長で緑色やつがすまなそうにそう言ってきた。

そして三人でこう続けたんだの。

「何かしようってんじゃないの。ただの好奇心。」
「ただ船が壊れちゃって、見たでしょ? 墜落よ。」
「あなたは?ここの住人?」
「わたしたち下から来たのよ。知ってる?下の世界。」
「下の世界と上の世界に間に、『真ん中』があるって知って。」
「ここ、『真ん中』でしょう?」


僕は聞くことでいっぱいいっぱいで、何を言ってるのかさっぱり。
でも、とても気になることを青くて小さいやつが言ったんだの。


「拒絶したのアンタでしょう?船壊したの。」

「直してもらえるかしら?おとなしく帰るから。」


ドキッとした。なぜか。




あたまが、痛い。目の前は白く。

何も聞えなく、 目の前が白く。







































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The fall is forest vol.28




白煙か、朝靄か、ぼんやりとした視界。

ササッ ササッ
その奥から軽快な物音が聞こえる。

「あービックリした。あーあー壊れちゃった。」
「あたりまえか。」

なにか、いる。
そしてなにか喋っている。


丘の上から見たかぎりでは、
大きな何かが墜ちてきたようだの。





ササッ サッ

次第に物音は大きくなり、


姿を現したそれは、僕に気付き、
こちらに近寄ってきた。


「二人ははどこいったのかしら。」
「みどりのとオレンジの。アンタ知らない?」
「ま、いっか。で、二人は?地中にブッコミかしら?」
「ふー。ま、いいか。で、アンタ誰?」


立て続けに捲し立てているが、
なんのことか、よくわからない。

モクモク立ち上る白煙にも、
目の前に現れたコイツにも、
僕はイライラしていた。
何故だろう。
僕はもう「モリラ」という名前しかわからないのに。





そして目の前に現れたコレとは別に、
突如、背後にもうひとつの気配が。

「ふぅ〜。やめなって言ったのに。」
「来ちゃうんだもんな〜。強引。」

小声だが、何か言っている。



目の前のと、背後にいきなり現れた気配。


いったいなんだのか?

だいたい、僕は何をしに来ただのか?

壊れちゃったって、何?

二人?

強引に来た?




ああ、なんだか心がいそがしいだの。
























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The fall is forest vol.27





前触れのない凄まじい地鳴りに、
木々は揺れ、その葉を落とした。
不意を突かれた辺りの生物たちは飛び起き、
森を包み込む穏やかな朝の日差しは、
一瞬にして不安の白煙によって遮られた。

僕は僕の混沌のなか、途切れ途切れの意識を紡いで、
そこへ向かう。

いったい、何が起こったのか。

僕の名前は、「モリラ」。
今はもう、わかるのはそれだけになってしまっている。

そこに居合わせた他の生物同様、逃げればいいものを、
僕はなぜ、わざわざそこへ向かうのか。
はっきりとはわからない。

しかし、怖いもの見たさ、
好奇心の類でないことはわかる。


なぜだか僕はそこへ行かなければならないだの。

いや、行かなければならない、のだ。


もう言葉もわからなくなりつつある。のだ。




ふらつきながらも少しずつ進むと、
鼻にまとわりつく白煙は次第に濃くなっていき、
息ぐるしさに耐えかねた僕は、
その隙間を縫うように丘の上を目指す。
何度も転げ落ちながら煙と木々の密集をぬけ、
そこに立つと、起こっている事態のもとを、

僕は目の当たりにした。



「何だの。あれは。」

















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The fall is forest vol.26





やはり、おかしいな。
このオオルリ、僕のことが見えているみたいだ。

「お前は誰だ?」とピーピー。

「出たり消えたり!」とピーピー。


「誰だ」と聞くのも変だよ。
もうずっと前からの付き合いじゃないか。

それに、「出たり消えたり」じゃない。
言うなれば、「集まったり散ったり」さ。

と思ったけど、どうやら思うだけでは伝わらないようだ。
こうなってしまった今では。


なので、声を出してみたけれど、
なかなか上手くいかない。
はじめてだからね。

「僕は、ノリ。」
「じゃなくて、モリ。」
「モリら。」

やっぱり上手くいかない。
「森だ。」と言いたいのだが。


「そうか。モリラか。」
「オレはピリーリってんだ。」
「よろしくな。」


…勘違いされたけど、

これはどうにも正すのが難しそう。

しかし、こうなった今では名前も必要になるだろうし、

それに何か気に入った。

「モリラ」か。それもいい。



それより、

さっきからとてもボンヤリして、
なんだかよくわからなくなってきているんだ。


僕は何をしていたのか。



…僕の名前はモリラ。

今はそれだけになってしまって
きている。どんどん。


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